労働新體制研究-昭和研究会労働問題研究会報告-

発行年:1941年(昭和16年)2月

発行:東洋経済新報社

三、半島人の移入と其の労務管理

 昭和研究会は近衛文麿の政策研究団体として後藤隆之助によって立ち上げられた団体であるが、昭和15(1941)年に解散した。ゾルゲ事件で有名な尾崎秀実がメンバーの一人であったことでも知られる。本書は解散の翌年、研究会に所属し、昭和研究会整理事務所の事務代表者となっていた岩崎英恭が、研究会の研究成果をまとめて出版したものであり、近衛政権の目指した国家総動員体制下に於ける労働問題について言及、考察されており、労務動員計画による官斡旋の実施前後の朝鮮人の炭坑労働について実状を詳しく述べ提言している。

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    三、半島人の移入と其の労務管理

 支那事変を契機とする我国産業の戦時体制への突入と共に急速なる生産力拡充の遂行は早くも外地労働力の吸収対策樹立を必要とし、殊に石炭業者からの要望が強く昭和十二年末社会局長官の名に於て発せられた各道府県知事宛通牒の中には「内地在住朝鮮労働者にして就業状態思はしからざる者(失業登録者を含む)ある地方に於ては此の際之等の者を極力石炭山に紹介すること」とあり、既にその一端が現はれたのであつた。

 斯くて昭和十四年度労務動員計画に於ては五、六万、昭和十五年度に於いては七、八万の半島人移入が織り込まれたものゝ如く想像される。(1)

 然し企業に対し積極的に移入が許可されたのは昭和十四年七月二十八日付内務、厚生両次官依命通牒により鉱山、土木事業の二産業に対し許可した事を以て嚆矢とする。

 而して九州、北海道地方に於ける鉱山等に於ては相当数の移入を見、増産に対し協力を得つゝある訳である。

 半島人の移入に就きては厚生省職業部並に地方長官の許可を必姿とする。即ち半島人を移入せんとする業者は先づ地方長官に申請し厚生省の許可を得るや現地で募集する事になるのである。その指導に就きては協和会が当る。協和会本部は厚生省内に在るが主要道府県に支部を有し指導職員を置いてある。

 内地在住半島人は総て此の地方協和事業団体の会員に所属せしめ中央協和会に結付く。協和会の示す指導方針は大様左の如きものである。

 半島人労働者移入の条件として雇傭主に行はしむる施設は地方の実情に即応し指導する。

 (イ)住宅は特に衛生施設に付留意せしむること

 (ロ)集団地域にして必要が認むる場所に対しては隣保施設として「協和館」を設置せしむること

 (ハ)内地同化を基調とし矯風教化の指導を為さしむること

 (ニ)実状に即し福利施設を講ぜしむること

 (ホ)労働者の訓練施設を為さしむること

   〔註〕(1)産業福利 第十五巻第三号『半島労務者座談会」参照

 右の中労働者訓練に就きては道場教育に則り薫育陶冶し皇国臣民としての礎地を啓培して産業報国の誠を致さしむるものとしその施設につきては雇傭主をして単独又は合同に依り或は協和事業団体に委託して実施せしむる。

 訓練期間は三ケ月を標準とし、土木建築等に於ける短期間の雇傭に於ては一ケ月くらゐまで短縮することを得る。

右期間中の訓練時間は作業時間内に舎めて之を為し、賃金の引下控除待遇低下等を為さないことを要する。訓練時間は一日尠くとも一時間以上とし訓練時間は事業の種類に依り実状に即応して之を定むるものとする。訓練科目は修身公民、国語読書、礼儀作法.訓話規律訓練.作業調練等とし、左の如き皇国臣民の誓詞を服膺せしむる。

      皇国臣民の誓詞

一、我等ハ皇国臣民ナリ忠誠以テ君国ニ報ゼン

二、我等皇国臣民ハ互ニ信愛協力シ以テ団結ヲ固クセン

三、我等皇国臣民ハ忍苦鍛錬力ヲ養ヒ以テ皇道ヲ宣揚セン

 尚ほ移入及帰郷者に関する保護に就きては雇傭者が自由に解雇するが如きことなきやう指導し、渡航者保護斡旋施設を下関に設くる計画が進められると共に不正渡航者の保護送還或は内地在住者にして帰郷保護を要するものに対しては国庫予算の範囲に於て中央協和会を通し、地方協和団体に交附することになつてゐる。

 以上の如き政策に基き此度の半島人移入がなされつゝあるのであるが以下労労務管理上参考に資すべき諸点を指摘しながら叙述するであらう。

 

           (一)内地に渡航する者と渡航先に於ける

 現在内地に居住する半島人数は約八十五万人を算するのであるが大阪を筆頭に兵庫、福岡、東京、愛知、京都、山口、広島、北海道、神奈川等の順位に全国的に分散して居り、その七十八%は労働者である。(1)内地に渡航する者の多くは内地に渡るならば少くとも朝鮮にあるよりはヨリ有利な仕事に就く事が出来、従つてヨリ良い生活を営み得ると言ふ希望を持つことに於て例外はないであらう。而して渡航者の多くは半島に於て労働条件の低い農民或は自由労働者であつて次表に示す如く朝鮮総督府調査昭和十三年末現在に於いて朝鮮人総数二一、九五〇、六一六人中農業人口は一六、六一五、七七一人と総人口の七五%以上を占め労働予備軍として頗る優勢を示してゐる。

 その労働予備軍たる所以のものは協和会武田行雄氏の述ぶる所によれば、今日朝鮮に於ける農家戸数は三百六万戸であつて一戸平均の耕作反別は一町六反、内地の一町一反よりは僅かに多いのであるが、これを地方別に見ると慶尚南道は〇・九三町、全羅北道一・〇一町、慶尚北道一・〇六町、全羅南道一・〇七町となつて居て南鮮各道は何れも内地の耕作反別より少い。而も条件の劣る地味、気候、農業技術等を考慮に入れると農村方面の人口過剰の実状は容易に推察される所である。尚之に加ふるに朝鮮に於いては土地所有が偏して居る為に五反未満の零細農は八十七万世帯、農業労働者は三十三万世帯に達し総数の三分の一に相当する有様である。(1)

 少くとも客観的に就労せねぱならぬ経済状態にあるといふことが言へるのであつて、之等が主として内地に向け渡航する。次頁表に示す如く昭和五年を除く各年とも渡航者が増加し政策の影響もあるが昭和十三年以降渡航者が増加して来たことは疑ふ余地もあるまい。

〔註〕(1)武田行雄氏論文「半島人労働者内地渡航の必然的傾向」パンフレツト第三十六頁参照。

 

 而して之等の渡航者が内地に於て如何なる労働に従事しつゝあるかといへば、紡績、機械工場に於ける女工、硝子工場等の如き特別に激しき又苦痛多きものを除いては大都分は鉱山労働又は土方、人夫の如き自由労働者である。前記武田氏の説明を引用すれば、昭和十三年六月の統計では総数七十六万八干人でその四〇%に当る三十万九千人ンが労働者となつて居るのであつて家庭従属者は四七%に当る三十五万七千人に増加し居る。これから見ると労働者の出稼的傾向が段々減少して来て、漸次内地に腰が据つて来たと見ることが出来る。之等三十万に達する労働者の就労状況を見るに、最も多いのは土建方面の労働者であつて、総秀働者の三十三・一%に当る十万二千人に達し主として大阪、兵庫、京都。東京、広島等に多く、事変後段々に増加する傾向にある。

 第二位は化学工業方面の労働者であつて、総数の一二%即ち三万八千人であつて、大阪、兵庫、愛知、東京等が多数を占めて居る。

 第三位は繊維工業であつて、一一%即ち三万六千人で大阪、京都、愛知、兵庫等に多い。これは事変前平均一円五十銭位の賃金であつたものが今日では二円五十銭位に騰貴して居るにも狗らず、昭和十一年以来時局の影響に依る操短等から多少減少の傾向にある。

 第四位は金属機械の三万人で一○%に当り、大阪、京都、愛知、兵庫、福岡方面が主で、これも事変後幾分減少の傾向である。

 第五位は店員、丁稚、農夫、漁夫、家事手伝等の一般用人であつて二万六干人に達し、大阪、福岡、兵庫、東京等に多く之等は事変後増加しつゝあり特に農夫、漁夫の増加が目立つて居る。

 第六位は鉱業で、福岡、山口に多く一万四千人であるが、これは二円乃至三円の賃金を得、時局柄需要多く漸次増加の傾向にある。

 第七位は仲仕業で大阪、福岡、兵庫が主で、近年増加著しく一万四千人を数へ賃金は二円乃至四円である。(1)

〔註〕(1)武田行雄氏前掲書 第三六五、三六六頁参照。

 

          (二) 半島人の賃金

 

 半島人の移入に際しては内地人と半島人との間に差異を設けないやうにすることを原則として指導しつゝあるものの如くであるが実際を見ると多少の差異を設けてある所も存する。

 半島人の賃金に就き参考として先づ朝鮮内に於ける内地人と半島人とを比較すれば左表の如く相当の差額を示して居る。職種別にその最高額を見るに朝鮮内に於て熟練を有する者は相当高い賃金を得てゐることが分るのであるが、左表中に於いて平人足以下の各項目に属する謂ゆる自由労働者の賃金はガタリと落ちてゐることが分る。

 

 之等自由労働者と比較するために内地に於ける自由労働者の賃金を見るに次項表に示す如くであつて、内地人と半島人間に差異を設けぬといふ方針に基く限りに於て賃金額面では内地の方が有利な訳である。

 

 此度の移入者に就き内務省の調査せる所によれば賃金は三ケ月の訓練期間中日給二円乃至二円五十銭を支給し訓練終了後は本人の稼高により炭坑方面にありては日収三円程度を支給するものあり各地各職場により多少の差異あるも概ね内地人労働者と差別なく支給しつゝある。

 參考のため福岡県下に於ける各炭鉱の賃金を示せば次の如くである。

   ◎古河西部簑業所目尾坑

 一方平均収入二円四十銭にして賃金支払に当つては計数を納得行くまで明かにし貯金、送金額を本人と相談の上差引き支給す、一四〇人中一三〇人が送金し、十五年一月までの総計三千円(一人最高四〇円最低五円)、原則として一勘定五円の送金割当を課してゐる。

        ◎九州曹達西川鉱業所本坑

 一方平均収入二円四十銭にして賃金支払に当つては割当てたる貯金、送金及び其他費用を控除して支給す。送金月一人平均十五円、貯金二月末迄に最高者三十五円、最低者五円(病気欠勤の者)。

        ◎貝島炭鉱大辻坑

 一方平均収人は移入後二週間は一方二円の保証賃金制であつたが、三週間目から請負賃金制に変更、現在平均二円五十銭である。賃金支払に当つては本人に稼高及費用控除を納得させた上相談づくで送金及ぴ貯金額を差引き支給す。送金一人一ヶ月平均二〇円、貯金一人一ヶ月平均一五円

        ◎日産遠賀鉱業所

 一方平均収入当初一ヶ月間は二円五十銭の定額賃金制であつたが、二月目より請負制に変更現在三円程度である。賃金支給に当つては本人と相談の上貯金及其他所要貴を控除、残りを支給す。送金一月迄に一坑四百人で一万二千八百余円、貯金一月迄に七、三〇〇円である。

 右によつて推知される如く賃金支払に当つては本人を納得させることが必要であつて、政府当局談によると募集に際し募集従事者が被募集者に言明せる賃金乃至待遇条件と異る場合あり之がため期待にはづれ怒らしむることなしとせず、労働条件をよく徹底し公平に取扱ふことが最も大切なことである。

〔註〕(1)労働事情 第一三五号第二一頁以下参照

 

           (三)作業上の諸問題

(イ)一般的に見た半島人の性格と労働

 半島人が如何なる作業に適するかは前述「渡航者の就労状態」の節によつてその概要を知り得ると思ふのであるが、参考のため諸氏の意見を列挙し検討を加へて見たいと思ふ。

 資料は旧いが山田文雄氏はその論文「朝鮮人参働者問題」中に於て色々の角度より半島人の特質に就て述べられて居られるので、茲に抽出して見るならば朝鮮人労働者の殆んど全てが土方、人夫等の技術を要せざる自由労働者である所以を考察するに、

一、半島人労働者が内地人労働者に比して知識程度低く、熟練を要する各種工業上に能率低き為、企業家の側から云ふならば仮令賃金は高くとも技能の優秀な熟練労働者を求むる事は当然であらう。かゝる意味よりして半島人労働者は内地の各工場に於てその地歩を占むる事困難なる状態にある。

二、半島人労働者は内地語を解するもの極めて少い。こういふ点に半島人労働者を歓迎しない原因が存する。

三、半島人の習癖として一定の場所に落着いて仕事を励むと言ふ習慣に乏しい。こうした点に内地企業家が半島人労働者を好まない所以の一つが存する。

四、更に彼等が正月をその故郷に於て迎へんとする風習を有する事は帰還半島人数の統計の示す所である。故に連続労働を必要とする各種工業に於て半島人労働者は歓迎せられない。

五、内地人対半島人の折合といふ事も看過すべからざる一原因であると考へられる。内地人側に於て朝鮮人と言ふ名に対し一種侮蔑的眼を向け之と共同して事をなすを好まないといふ傾向あるは遺憾の極であるが、之に対し、半島人側の責任なしとしない。半島人が多数集合せる場所に於ては彼等は直ちに団結して他に対抗し他を排せんとする傾向を有する。之は独り工場内に於けるのみでなく内鮮人の協同に生活せる全ての団体に於て見る所である。故に多数の職工の一堂に就業せる大工場に於て内鮮労働者間の融合を欠き従つて半島人労働者の排斥せらるゝ事は注目すべき問題ではなからうか。

 右の如き理由により工場労働者として半島人はその地歩を得難いのであるが、一方土工、人夫としては相当の需要あり、将来に於てもこの方面に進路を見出し得るものであらうと思ふ。半島人は内地人に比して勤勉の度に於て劣るけれども、又一方に如何なる過激下賤不快の労働と雖も之を嫌はないといふ長所を有する。之一つには彼等の生活程度の低きによるものであつて、内地人労働者の嫌ふ所の土工、硝子工等の如き労働は彼等にとつて最も需要多き労働である。而も比較的低廉な賃金で雇傭せらるゝ点は或種の雇主にとつては彼等の能率の高低に不拘有利な条件として歓迎せらるゝ。(1)

〔註〕(1)京城帝国大学法文学会「朝鮮経済の研究」所載。山田文雄氏論文「朝鮮人労働者問題」第五一〇―二頁参照。

 北海道炭鉱汽船株式会社の中山督氏は昭和十四年十二月二十一日の「半島労務者問題座談会」において次のやうに言つて居られる。

「前略……それで連れて来た今度の鮮人は、私自身鉱山で実際朝鮮人を扱つた事を申しますと、今日と当時とは思想も違ひますが、今日お世話戴いたのは純百姓で非常に柔順なので鉱山の者は喜んで居る次第であります。然し一面に於て私共見て居る所では、或は見方が悪いか存じませんが、動もすると附和雷同する事がある様に考へて居ります。然し其の附和雷同と申しましても、根本的に一致団結した不良的な附和雷同でなくして、自己本位に出発した附和雷同であつて、事を分けて話をすれば解散してしまふ程度のものであります。然しども言葉の違ふ関係、又外国に来たといふ心持の関係で、例へば日本人でもカナダに行けば団結すると言ふことでありますが、どうも団結して雷同すると言ふことがあるのであります。それから欠点と申上げますれば今申した様な事と動作が非常に鈍い。鈍いと言つても先程体格が良く、骨格が良いと言つた事がありましたが、例へば機械作業とか機敏に働く事には朝鮮人は向かないと考へて居ります。又現場の者もさう言つて居ります。結局押すとか引くとか、運搬作業などには非常に向いて居る。然し箱に乗るとか、或は機械を使ふとか、機敏な仕事とか、頭を使ふ事には向かないのではないか。それも段々訓練をしたならば宜しいではないかと考へて居りますが、今の所はさういふ状態であります。尚ほ欠点と言へばどうも未だ賭博を好むと言ふ事、或は金銭に穢いと言ふ事でありますが、さういふ事は訓練によつて段々直して行かれると思ひます。」(1)

 次に同座談会に於ける磐城炭鉱株式会社の茅根正夫氏の説を抽出すれば

「前略……一つ使つてやらうといふ風が内地人に見える。さうしたことから内地人の方でよく面倒を見ないといふ為か、自分の身体を適当に按配して能率よく使ふといふことが余り見えないやうです。それとハンマーを岩や炭層にぶつ付けて孔を削るといふ作業は寧ろ内地人よりうまい位になつて居るやうであります。非常に辛抱も強いし、大分良いやうです。(中略)それから来た連中の中で一番良いのは、朝鮮でも小作権も有せず、年中日傭労働をして組織的に働いて居た者が良いやうです。一番悪いのは煽動のリーダーになつて、何か常に小さな不平を大袈裟に言ひふらす者、所謂内地に何回も渡つて来た経験を有つて居るものがそれであるやうであります。」(1)

 以上諸氏の意見を総合するに移入する半島人の多くは農民であり。知識或は言語の関係等もあつて頭脳的、熟練を要する作業には不適であるが、力を要する筋肉労働には適してゐるといふことが言へる。而も保安上から見ても雷同性なき者を探用するといふやうなこと、純農民、或は日傭労働者といふやうな階層を連れて来ることが指導及能率上適当であることが分る。

〔註〕(1)産業福利 第一五巻(註1)『座談会』第九一頁参照。

(2)同上 第九六頁参照。

(ロ)能率上より見たる半島人

 半島人の能率如何に就きては従来參考となるべき文献に乏しいため確定的に之を知り得ないのであるが、三菱鉱業株式会社大槻文平氏が嘗つて「社会政策時報」第百二十一号及第百二十二号に発表された「北海道に於ける朝鮮人鉱夫問題」には吾人の参考とすべき点尠からず之を中心に最近の事情をも織込み能率上の諸問題に触れて見よう。

 (1)移動 前記大槻氏の調査に基きABCD炭坑に於ける大正十五年以降の内鮮人別採炭夫の移動率を示せば次表の通りである。(次表は月末在籍人員を以て各月の離職者総数及入籍者総数を各々除したる百分率である。)

 

 右表によつて離職を見れば鮮人は平均大正十五年度に於ては一七%、昭和二年度に於ては一〇・五%、昭和三年度に於ては八・三%となつてゐる。内地人は鮮人に比して遥かに低率を示し、大正十五年は六・九%、昭和二年度六・一%、昭和三年度に於ては約五%となつてゐる。

 雇入の方面に於ても率に於ては解雇に比して高率を示すも略同様の傾向にあることを知り得る。(1)

 以上の結果によれば鮮人の移動率は内地人に比して大なりといへども段々減少の傾向を示してゐるのは労務管理の向上と年限の経過に伴ひ縁故関係によつて来るもの多く素質も段々向上して来たことに起因するものであると考へられる。

 斯くて鮮人移動の原因として挙げられるものは、(イ)単身者多く、(ロ)言語、風俗を異にする為め意思の疎通を欠くことあり、(ハ)思想単純にして労働事情に疎く他人の甘言に乗ぜられ易く、(ニ)且つ雷同性に富み利に走りて恩諠を顧みざる体の落付かざる習癖の為め平均移動率に大なる影響を与へて居る。(1)

 当局談によれば昭和十四年労務動員計画により移入されたものゝ内二月迄の逃走者は約六%に達して居るといふことであるが、この内には事業に不馴なこと其他の原因によるものありとするも、移動に関しては待遇の改善、娯楽機関、住宅等の整備を行ふと共に特にそれをチェックする諸方策を講ずる必要があるであらう。

  〔註〕(1)社会政策時報 第一二一号。大橋文平氏「北海道に於ける朝鮮人鉱夫問題」一〇〇、一〇一頁参照。

     (2)同上 第一〇Ξ頁參照。

(2)勤続 勤続と言ふこと即ち徒らに移動せぬと言ふことは労務者にとつて自己の地位、品性の向上を計る上に重大なる意義があり事業主側から見ても労務者の素質改善、訓練教化.指導の点に於てこのことが眼目になつて来る。而して勤続の良否は直ちに募集費等の直接的利害並に熟練による生産能率の増大及新参者の訓練、災害に基く諸費用の減少等の間接的利害と大なる関係がある訳である。然し風俗、言語を異にし、利益を追ひ風評に動かされて浮草の如く転々するを常とする鮮人に於ては、何と言つても一定場所に安住して百年の計を定めると言つた風の者は尠い。こゝに住宅、賃金、娯楽施設その他旁務管理一般に於て幾多の改正し助長せねばならない大きい問題が潜んで居る。要するに勤続と移動とは互に楯の半面をなすものであるから勤続年数は、結局に於て移動防止対策の良否に結果すると言ふことが出来よう。今昭和三年八月現在A、B炭坑に於ける内鮮人別採炭夫の勤続年数を見るに左表の通りである。

 

 之に依れば鮮人の大都分は半年未満乃至一箇年半以下の者であつて全数の八割余を占め五年以上と云ふ者は僅かに五名を数ふるに過ぎない.反之内地人に於ては半年未満一箇年以下と云ふ短期勤続者及び五箇年以上の勤続者は略々同数で全体の三割を占めて居る。而して九州地方に於ても同様の傾向を示してゐる。勿論之は、鮮人には年に一度必ず故郷に帰るの習慣を有して居ること及びその多くは単身者なるに反して内地人には有配者が多いのが一大原因であるが、管理者の一考に値する問題である。

 次に社宅、会社直営寄宿所及飯場に居住する鮮人探炭夫に就いて勤続年数を見るに左表の通りである。

即ち右表によつて一箇年半以上の勤続者の数を見るに

 一、社宅に住する者           一五四人に対し四四人

 二、直轄寄宿所に住する者        二七一人に対し四四人

 三、飯場に住する者           二五五人に対し二二人

である。換言すれぱ一年半以上の勤続者は社宅居住者に於ては、二割八分に達し、直轄寄宿所に於ては全数の一割六分を占め、飯場居住者は僅かに八分六厘に過ぎないのである。勿論社宅居住者は全部有配者であるに反して、直轄寄宿所及飯場に住する者は悉く単身者である。

 茲に於て第一に有配者は勤続の可能性多く第二に住所寝具食物其他の待遇及環境等の良否如何によつて或程度迄移動を防止して勤続せしめ得るものと結論するも、強ち謬見ではあるまい。(2)

(3)稼働率 内鮮人の稼働率は次第に接近しつゝあるといふことが言はれてゐる。(3)

  〔註〕(1)前掲大槻文平氏論文第一〇四、一〇五頁参照。

     (2)同上 第一二二号第八八頁参照。

     (3)労働事情 第一三五号第二一頁以下参照。

 此度の集団移入による者は着山早々であり緊張せるためその稼働率は頗る良好であると言はれてゐるが慣れるに従つて漸次低下する傾向が見られるので絶えず刺戟を与へることが必要である。北九州各炭坑に於て古くより使役してゐる者は一般に其の稼働率低く前述の傾向を示してゐるのである。

 今各所の稼働率を示せぱ次の通りである。(3)

 北陸鉱山 八七%

 大盛鉱山 九八%

 佐賀関製錬所 九五%

 高松炭砿(日産化学)六〇%(従来より使役せる者)

 綱分炭砿(麻生商店)四五%(従来より使役せる者)

           九〇%(集団移入せる者)

 赤坂炭砿(麻生商店)七五%(従来より使役せる者)

           一〇〇%(集団移入せる者)

 北海道炭砿汽船 九〇%―九五%(集団移入せる者)

 磐城炭砿 八三%―九六%(集団移入せる者)

 古河西部砿業所日尾坑 八四%―八五%(集団移入せる者)

 九州曹達西川砿業所本坑 九二%(集団移入せる者)

 貝島炭砿大辻坑 八〇%(集団移入せる者)

 人は総べて安易を求める。殊に教養の足らない人間に於て然りである。故に食は生命を維持するを以て足り、労働は必要の糧を得る限度を以て足ると許り悠々として不規則に稼働されては各方面に大なる支障を来すのみならず労務統制上何等の方策も加へずに等閑に附することは出来ない。

 即ち或は入坑奨励金制度を設け或は出稼の功を一家の主婦に帰して家族手当を支給し或は中元歳末手当等に出稼成績を加味する等の刺戟方法を探らねばならぬ。殊に経済観念の強い半島人に対しては有効なる方法であると考へる。

 以上、移動、勤続、稼働率を能率との関係に就いて述べて来たのであるが、この外傷病率に就きては動作の鈍重なること、言語が通じないこと、風習の異ること等のため内地人に比して高率であるが、作業の選択宜しきを得ること及び基礎訓練を充分にすること等によつて或程度減少せしめることが出来ると言はれる。只注意すべき点は負傷殊に血を流すことを甚しく恐れることゝ同一程度の負傷でありながら内地人に比べて治療に著しく長い時日を要するといふことである。不潔な生活による傷口の化膿等に起因することもあるが、性来の怠惰性及誇張根性に基き往々にして全快して居りながら然らずと主張するやうなものもあるといふ。(1) 之等は充分の訓練をなすことによつて善導せなければならぬと思ふ次第である。

 尚ほ能率一般に就きては言語其他の関係より鉱山方面に於いては平均内地人の七〇%乃至八〇%程度であるといふが、之等も言語、規律、機械の使用、其他作業の訓練によつて内地人との幅を狭くすることが可能であらうと考へる。

  〔註〕(1)労働事情 第一三三号第一八頁参照。

(ハ)半島人に対する福利施設

 半島人を使用するに当り考慮せなけれぱならぬ重要問題の一つは福利施設である。彼等をして生き安んじ、業務に精励させるためにはその土地或は事業場に安住せしむるだけの設備を整へてやらなければならない。鮮人は気が荒いとか、移動が劇しいとか、勤続が短いとか言ふけれども、彼等をしてさうさせる如き待遇上の差異或は福利施設の不備が無いであらうか。

 茲では主として住居、食事等に就き触れることに致したい。

 (1)住宅の問題 内地渡航の半島人労働者が一番困難を感ずるものはその住居である。内地人の家主は鮮人に対し家を貸す事を拒む傾向がある。彼等は不潔であつて掃除手入を怠るため家をいためる事が多い。而して彼等半島人が自力で家を建てると言ふ事は望み得ない。半島人はその故郷に於て極めて粗末な家屋に雑居する事に慣れてゐるが故に、狭屋に住むことは意としない。それにも拘らず内地に於て住居を得ることが困難なのである。極めて少数のものは内地人と雑居するであらう。又工場に働く労働者はその工場附属の宿舎に住む事も可能である。又半島人の家族の下宿営業を行ふものもあつて、之等の家には畳数以上の下宿人が宿泊してゐるのが常である。

 朝鮮人労働者は一般に都市の接続町村に住むものが多い。所謂場末である。

 彼等は狭い場所に雑居する事を厭はない国民であつて住居問題の解決は内地人に対するそれよりも比較的容易であると言へる訳である。

 斯くて半島人移入に当り住居を準備するといふことが必要になつて来るのであるが、九州の綱分炭砿、赤坂炭砿等では従来より使役せる半島人を内地人と仝く区別なく社宅に牧容してゐる。併し風習の相違、衛生観念の欠如などのため半島人のみ別の一区域に纏めて収容してゐる所が大部分である。(2)

 扨て然らばその内容如何といふことになるが、茲には前記座談会に於て協調会坂本金吾氏の述べられた所を抽出して参考と致したい。

「前略……住宅問題でありますが、多数の独身者を収容する上は生活方面から見て、住居としてもつと実のある宿舎を御考えへ願ひたい。それからもう一つは半島人の所謂家族住宅の問題でありますが、是は当然どうしても考へなければならぬ問題ですが、此の場合、決して内地人と半島人との間に住宅の内容を変へる必要はないと思ひます。段々内地の住居に順応し馴致して来るといふことを実際工場で使つて居る所を見て思つたのですが、北九州の産業セメント辺りは半島人を三分ノ一使つて居ります。其のシステムで行けぱ生活の動き方も秩序よく行つて居るし、毫も内地人労務者と懸け離れた点は見えないのであります。訓練宜しきを得れぱ生活程度は向上して行くと思ひます。さういふやうに先づ設備其他を内地人と同格に用意するといふことが大切であると存じます。」(3)

即ち住宅も内地人と同じやうに設備してやることが居附きをよくし能率を向上せしめることになる訳であらう。

  〔註〕(1)前掲、山田文雄氏論文第五一九―二一頁参照。

     (2)労働事情 第一三四号第二九頁参照。

     (3)産業福利 前掲座談会第一〇〇頁参照。

 (2)食事の問題 次に食事の問題であるが、経験者の語る所に依ると、昔も今も同じやうに来た当座の半島人は一日に一升二合から一升位を食するが、日を経るに従つて七合乃至七合二勺位に減つて来るといふことである。米の飯を一升二合も食すると胃腸病を起すからこの点注意しなければならない。朝鮮ではサバリーと言ふ丼に盛り切りにしてそれで一杯しか食べない習慣になつてゐるのであるから急に詰込むと体を害するのは当然なことである。サバリーは内地の普通の茶碗なら五杯位の分量で丼にぎゆうと詰め込んだものである.

 移入した労務者は脚気になる者も相当あるといふことであるから麦を二割乃至三割位混ずるといふことも必要である。

 食費はどの位であるかと言へば一日平均四十銭見当のものを採つてゐるやうで福岡県下の例を示すと左の如くである。(1)

古河西部砿業所日尾坑

食費 一日三〇銭乃至三六銭、賄人に鮮人を置き好むものを食せしむ。

九州曹達西川砿業所本坑

食費 一日四一銭乃至四二銭。賄人は内地人を置きニラ、ニンニク等の如き特殊のものは希望に応じて何でも与へる。胡椒をよく好む。酒は成るべく与へないことにして居るが、好む者には夜食に一合限度を許してゐる。

貝島炭砿大辻坑

食費 一日四五銭。献立表を作製し賄人は内地人を置きニラ、ニンニク等特殊な物は献立せぬ。酒を飲まぬものは只一人に過ぎない。訓練期間中は一人一日一合に限定したが現在は制限を設けてゐない。

日産遠賀砿業所

食費 一日四〇銭。賄人は内地人でニラ、ニンニクは与へぬ。特殊なものとして胡椒を与へるのみ。酒は飲用を禁止してゐる。

  〔註〕(1)労働事情 第一三五号第二〇頁以下参照。

 (3)浴場の問題 労働の疲労を回復し、身体を清潔ならしむるため浴場施設を設けることは半島人移入に際して充分考慮せなければならぬ問題である。朝鮮の環境が衛生的でないため、殊に訓練する必要があると思ふのであるが、移入当初内地人と混浴せしめた処、不潔なため猛烈な苦情を受けたといふ事業場もある。九州地方の事業場中佐賀関製煉所、王ノ山鉱山等には半島人専用の浴場を設けてゐる。筑豊地方の炭砿では何れも浴場は内地人と共同であるが別段差支へない由である。

 (4)性慾解決の問題 半島人使用上に於て労務管理上注意すべき事項として性慾を如何に解決してやるべきかの問題がある。之に対しては衛生的道義的指導を与へると共に、妻帯労務者に就きては出来るだけ早く連行せしむるやう住宅の整備をなすことが必要である。

 以上の外福利施設として慰安娯楽施設、共済施設等を段々整備することが必要であつて、多くの事業場に於ては内地人同様にその福利施設を利用せしめつゝあることは喜ぱしい次第である。

(ニ)半島人の指導訓練

 朝鮮に於ける教育の普及と共に移入される半島人労務者の質的向上が認められつゝあることは事実の物語る所であつて実に喜ぱしい次第であると言はねぱならない。

 然し彼等半島人にして日本語を解するものは甚だ僅少なのであつて未だ〳〵その教化訓練に努力せねばならぬことは次表を見たゞけでも頷けると思ふのである。即ち半島人千人中昭和四年末に於て七六・六九人の日本語を解するものがあつたに比し昭和十三年には一二三・八一人と進歩したものゝ総人口の一割余りに過ぎぬといふことは如実に以上の事実を物語つてゐるものであるといはねばならぬ。

        日本語を解する朝鮮人(朝鮮総督府調査 単位人)

               総数         稍々解し得るもの   朝鮮人総人口千人に付

   昭和四年末     一、四四〇、六二三     九〇〇、一五七     七六・六九

   昭和十三年末    二、七一七、八〇七   一、三一六、二六九    一二三・八一

 今般の集団移人半島人の補導教化に就きては朝鮮総督府、厚生省、内務省を初め各地方長官及び協和会に於て非常な力を注いでゐる訳であるが、各事業場でも既に之に協力、団体的訓練を行ひつゝあり、その成績も良好で、僅か三ヶ月の訓練期間の実験により従来渡航半島人の五ヶ年分の知識、仕事の理解を得るに至つたといふ所さへ出づるに至つてゐる。

 左の佐賀席製煉所及び麻生商店赤坂炭砿の訓練要綱を示し参考に供するであらう。(1)

  〔註〕(1)労働事情 第一三四号第三一―三二頁參照。

        佐賀関製錬所半島人鉱夫訓練要綱

一、訓練場所 作業訓練…各現場、学科及規律訓練…山ノ上倶楽部

一、訓練時間 現場に於ける作業中、学科及規律訓練左表の通り

    科目      日時             担任      備考

(1)国語     毎日午後一時及午後七時ヨリ一時間 守衛(裴) 朝鮮放送局発行ラヂオテキスト国語講座(初歩)使用

   〃      水、木、金、土午後二時ヨリ一時間 課員    国語ヲ解スルモノニ対シ前期テキスト中級使用

(2)修身、公民  毎月曜日午後二時ヨリ一時間    〃

(3)礼儀作法  毎火曜日午後二時ヨリ一時間     〃

(4)講話    毎月二回午後三時ヨリ一時間     課長又ハ課員

(5)体操及教練 学科ノッ前後二十五分乃至二十分間  課員

         赤坂炭砿募集朝鮮人訓練計画

一、訓練期間 雇入後三ヶ月

二、訓練場所 会館、合宿所

三、訓練方法 訓練所ニ止ラズ合宿所現場等ニテ行フ

四、時間

  (イ)昇坑時間二時間繰上ゲ

     一番方ハ午後四時ヨリ同六時迄

     二番方は入坑前二時間の訓練ヲナス

  (ロ)休業日ハ原則トシテ休業セシムルモ適宜遠足登山等ヲ行フ

五、訓練項目

  (イ)団体観念国民道徳涵養

  (ロ)時局ニ対スル心得特ニ鉱業報国精神昂揚

  (ハ)生活上必要ナル通俗的国語、算術、内鮮融和ニ必要ナル風俗習慣、作業ニ関スル一般事項

   (一)炭坑特有ノ名称、(二)労役扶助ノ大要、(三)健康保険ノ大要、(四)坑内外施設ノ大要、(五)採炭選炭運炭ニ必要ナル事項、(六)保健衛生ニ関スル事項

六、担任者

  所長、副長、労務主任、採鉱主任、保安主任、医局員、其他鮮語ヲ解スル労務係員、助手若干名、指導員補助員

 斯くて一応の訓練が施され前述の如き相当の成績を挙げつゝあるが内鮮融和に就きては特に指導が必要であつて、半島人に対してのみならず内地人に対しても理解を持たせる努力がなされねばならない。

 内務当局の談によると労働紛争も相当見出されるのであるが之等の原因は左の如き点にあるといはれる。

 (1)被募集時に於て労働条件を過大に評価し渡来後の実際と相違せりと為すもの

 (2)言語習俗の相違による誤解

 (3)坑内作業を危険視するもの

 (4)危険防止又は福利施設の完備を要求するもの

 (5)些少の事端を誇大に吹聴し一般が附和雷同するもの

 (6)事業主側が彼等を「産業戦士」として好遇するに付込み増長するもの

等が挙げられるのであるが保安上如何なる訓練を必要とし如何なる施設をなさねばならぬかが如実に現はれてゐると思ふ。

 次に指導員の問題であるが、出来ることなら朝鮮に経験あり朝鮮人の風俗習慣をよく理解した人を任ずることが最も重要なことであつて厚生省、協和会等に於てはこうした点に留意し積極的に世話するといふことにならぬと考へる。又現場内の労働配置にしても考慮を要するのであつて磐城炭砿に於ける実験の結論は左の如くで参考とすべきであらう。

 (A)従来より使役せる半島人の中に入れる        最悪

 (B)少数内地人指導者の下に多数入れる         大体良

 (C)多数の内地人の中に少数の半島人を入れる      最良

 以上今回の半島人移入と労務管理上の諸問題に就き述べ来つたのであるが、要するに彼等の性格を理解し使用する者は我同胞として親切に指導し施設を施すといふことが最も大切なことであると考へる。従来に於ける半島人に対する研究或は論議は相異る条件或は環境の下に於ける内地人との比較であつた。前述大槻氏は「北海道に於ける朝鮮人鉱夫問題」に就き科学的研究を遂げられ半島人に極く有利な結綸を提供されて居られるのであるが、私も亦之に同意したいのであつて茲に氏の言を引用しむすびと致したい。

「遮莫、炭山労働者としての鮮人の成績は、以上によつて略々明かなるを得た。問題は一般の想像を裏切つて意外に彼等に有利に展開されてゐる。而して鮮人使用と同時に起る問題の数々は、結局に於て、移動と負傷とに要約されるかの如くである。

茲に於て使役の可否は最早、大なる題目ではなくて、却つて教化指導如何にあらねばならない、即ち、

 一、飯場の撤廃と直轄寄宿舎の美化

 二、娯楽機関の完備

 三、寄宿所に於ける日常内地語の教育

 四、国元送金及貯蓄の奨励

 五、坑夫養成方法の徹底

 六、徹底的平等待遇

等に関し適当の方策を樹てゝ実行することにより、彼等をして愉快に永続的に炭山労働に従事せしめ得るのではなからうか。」(1)

今や半島人は我が生産力拡充に対する重大なる任務を担当しし東亜新秩序の建設に邁進しつゝあるのである。

各企業に於ける労務管理の整備と相俟ち内鮮融和以て此の重大時局を乗切るべきであると考へる次第である。

  〔註〕(1)前掲 社会政策時報 第一二号第一〇七頁参照。